さくらのくに/雨傘
わたしはレンズを向けた。朝のパフォーマンスは今日で1週間目になる。
個展会場で5年ぶりに再会したのが、この役目を引き受けるきっかけだった。
彼は展示された作品を見つめ、映っているヒビを丁寧に指でなぞった。
美大を卒業してから5年、わたしたちはあの地震の傷を埋める作業を、
別々の場所でしていたことを知ったのだった。
わたしは彼の横にしゃがんで、穴の底をレンズ越しに覗いた。
スコップの地面を齧る音が止まり、荒い息の音が頭上から聞こえた。
彼の草臥れたスニーカーとわたしのサンダルが並んでいた。
「この穴どうするの?」少しためらいながら、なるたけ自然に尋ねた。
「中で寝ころんだら土をかぶせてくれる?」彼は笑いながら答えた。
その声をかき消すように、強い春風が吹き、半開きのドアが勢い良く閉まった。
どこかから運ばれてきた数枚の花びらが、剥き出しの土にはらはらと落ちた。
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