さくらのくに/雨傘
ざくり、ざくり、という音で目が醒めた。
白い壁紙が窓から入る柔らかな光を映している。
わたしは朝一番の仕事を思いだし、慌てて起き上がった。
枕元には、寝る前に見なおしていた写真が散らばっている。
廃工場の壁を這うヒビ、災害の残したヒビ…。
ここ数年、わたしは建物に入ったヒビばかりを写していた。
写真をまたぎ、カメラを手に取ると、その足で勝手口のドアを開けた。
彼の奇行を見物していた野良猫が、驚いて走り去って行った。
塀で囲まれた東向きの庭は日差しが溢れていた。
彼は物干し竿の下で、穴を掘っている。
細長い体を屈め 砂利の混じる硬い土に スコップを突き刺す。
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