壜詰/10010
 
アルとしても、それがなんだというのか。壜詰の外にはもはや世界は無い。在ったとしても、もはや知られることはない。いまや世界に一切知られることなく、しかしまさに当の世界が、すなわち腐敗の帝国が、振られた巨大な壜詰の中を、大きな音で繰り返す。腐敗の帝国が大きな音で繰り返す、幾重にも衝突する、硝子の軋むような音で――それが未だ硝子であるならば――。

全人類が最初の壜詰、あるいはそんなものは正しくも定義できないというのであればどこかの壜詰の中に、「アヴェ・マリア」という語句をこっそり囁き容れておいたために、繰り返し反響するうちに「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」という音へとグロテスクに腐敗してあらゆる壜詰にこびりつき、呪詛の色合いを帯びたステンドグラスで彩られた屈曲する硝子の大教会の中で、それに応じて全人類も繰り返し変容し、全人類が最後の一人に至るまで全く人類でないもののようになり続ける、腐敗の帝国が――。
戻る   Point(0)