遠野拙歌/西日 茜
山菜(やまな)摘み 岩清水にて 菜を洗ひ
水小屋入りて 蒸し煎じする
トントンと 微かに叩く 音すれど
何人おらず 風の音(ね)なるか
煎じ薬 竹筒詰めて 持ち帰る
真暗になりて 尾根の途怖し
岩清水 淀んだところ 物の怪の
気配を感じ 鼻緒が切れる
ちょんちょんと 着物の袖を 引く者ありて
見れば可愛い わらし子ひとり
何でもな かかさまおらして 病にて
煎じた薬 分けておくんなと
少しなら それでいいかと 申せば
少しでいいと わらし言うなり
ならば良し 竹筒取りて 傾ける
小さなその手 水かきありて
まあるい目 涙浮かべて 嬉しそう
これでかかさま 救われますと
疾風ごとき 童飛び込む 水の輪の
間もなく浮かぶ 岩魚数匹
うっかりと 水入りなれど いいものか
肝をおさへて 岩魚を逃がす
我思ふ 疑い知ること 人の業
されどあのとき 心素直か
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