此方の景色/
因子
掌に感じた感覚に違和感を覚えて私はコートのポケットをまさぐった。いつだったか、そこへ何かを入れたまま忘れていたような気がした。裏布の冷たい肌触りしか存在しないそこで私の右手は暫くの間這い廻った。それからもう片方の手をもう片方のポケットに突っ込んだ。
午後のまるい光が左の頬を濡らした。
今年はこのまま冬になるのだろう。
視界に赤い色がちらついた気がして瞼を閉じた。
そして祈る。何処へも届かないけれど。
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