君の声、楔、直線の言葉を引き抜いて/はゆおりいと
 




「――ないのに」
 愛していたんだ、確かに、いつか
 かすんだ想いは、もう輪郭さえ溶けて淡いけど
 でもないていた君の声だけは
 痛みくらい鋭く僕の心に刺さったままで
 何がただしかったのかなんて解るわけもないのに
 君はいつも、誤りばかりの世界の真ん中でないていた
 愛していたんだ、確かに、いつか
 僕はきみにどんな言葉も掛けてあげられなかったけど
 君が生きた証は冷たく深く、僕の心を一直線に貫いている
 赤色で塗り潰した大きな画布に
 旧世界での親殺し、と君は小さな表題を添えて
 誰が世界を赤くしたのかな、寂しげにそう呟いた
 悲しい眸で僕に答えを求めた君は
 僕がなにを言っても拒絶するつもりだったんだろう
 だから、助けて欲しがっていたくせに
 空の下で君は忘れられることを望んだ
 君のなく声はいつも君だけにしか向けられていなかった
 きしんだ想いはもう、輪郭さえ溶けて淡いけど
君の こ えは、ないていた君の声だけは。

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