響き/
 
闇に浮かぶ小さな橙色の下、
母は今日もいびきをかいて寝ている。
ぐう
母のいびきは、しかしながら母らしく控えめである。
中年女性のにおい。
皺が増えた、と、三時間ほど前、鏡を覗き込み呟いていたが、
橙色に染まった母は眉間に皺をよせて
ぐう
と控えめないびきをかいて寝ている。

湿っぽい匂いの布団の重みを腕に感じて目を閉じる。
徐々に忍び寄る足音の主は巡礼者の行列だと気がついたのは、
まだアヒルのおまるを跨いでいた頃だっただろうか。
布団の中は息苦しくて、橙色の光に脅かされることもない。
遥か遠くから聞こえる、あれは虫の声か、鈴の音か。

おかあさん
の足元にうずくまり、寝巻きのすそを掴む。
ふくよかなふくらはぎに、しみが浮かんでいるのがはっきりと見える。
もういびきは聞こえない。
指先に感じる温かさから、母の鼓動がきちんと響いていることを知る。

目蓋の裏側は橙色をしている。
慣れた手つきで誰かが頭を撫ぜた。

静かな夜だ。


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