砂浜/阿川守基
波はゆれる境界
なかば砂に埋もれた
頭蓋骨の眼窩から
蟹が一匹入っていく
風は不確かな時間
すり硝子のように
薄くなった骨を透かして
蟹は太陽の輪郭を見る
そこは廃れた教会であって
失われた思念のように風が渦巻いている
世界に働きかけることはむろんできないが
頭蓋骨とはいえ世界であることを
やめたわけではない
貝殻や流木や空き缶と
影を失ったまま正午の沈黙に照らされている
ということでは同じだが
またわずかずつ崩れ去っていく
輪郭のうちがわに存在をけなげに守っている
ということでも同じだが
しかしかつては宇宙や世界もこのなかに
あったはず
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