赤いワルツ/aidanico
私は思い出す/つめたい夜に/カルメンの盗んだ/赤いワルツ!
/或る冬だった/私はもう目の前を何度も旋廻していた/震えるように足拍子を刻んでいた私を席に着かせ/踊り狂う赤い靴をホットミルクで切り落とした/「ワルツを刻めば善い」/その髭の男は言った/暖かさに浮遊した私の心はいつの間にか彼の元を離れ/隣には八重歯の男や眼鏡の男やハンチングの男などが入れ替わり立ち代わりに坐り/哲学や理論や他愛も無い言葉のなかに陳腐な愛を囁きながら/彼らは彼らの新鮮な心臓を私に差し出した/私はそれを恍惚の間に盗んだ/かと思えば彼らはいつの間にか私の心臓を細切れに刻み/カルメンだと思っていた私は幾人ものホセに貫かれてい
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