ひかりの十字架 /服部 剛
 
ひとりの人が年老いて 
深夜の廊下を 
手すりづたいに便所へ歩く 
開いたドアの隙間から 
漏れる音 
 しゃ〜 
 ぶ〜 
誰もが生まれた時から 
そんなに変わることでもないが 
隠したものを 
隠しきれなくなった時 
もし家族のひとりが 
自らの寝る間を割いて 
階段の上に腰かけ 
こどもに還った老人の 
ようすを静かに見守るなら 
ちょっとくさい 
人間といういきものの持ちうる 
愛情になれるだろう 
開いたドアの隙間から 
漏れる 
便所の明かり 
深夜の廊下の暗がりに 
ぼんやりと立ち上がる 
ひかりの十字架 
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