桜ときみと、ひとさしゆび/銀猫
 
ふわ、り
風に追われた桜
川面にちいさな州を作り
その薄紅のしたを
きみの遠い息遣いが流れる

いつか
それはシロツメクサの匂い立つなかで
流れていたのと、きっと同じ
けれど今日は
不思議な一線が引かれている

春はいつも
きみのかたちをしていた


  さびしい、と口にしながら
  枝に残る桜のひとつを
  ひとさしゆび、となかゆびで挟んで
  このまま少しだけ
  ちからを入れたなら
  きっとそれは真実に、
  思い出に変わるだろう


わたしのこころは
流れの遥かを越えた向こうに
忘れてきたらしい

ためらい、
ちぎる、
さくら、
指先が
四月





戻る   Point(9)