壊さない人/小川 葉
 
春なのに
鈴虫が鳴いてるようだった
古くて白い建物の
裏の方から聞こえてるようだった

この庭で
子供たちとよく遊んだものだ
木がひとりごとを言って
泣いてるようだった

帰り道
古くて白い建物は
跡形もなく壊されて
木もどこかへ
歩いて行ってしまったようだった

壊さなければならないものが
ひとつ残らずなくなるまで
人は生きなければならないようだった

木が立っていたのと同じ場所に
もう新しい芽が立っている
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