父に/井岡護
 
高くも低くもない空で
片肺のとりが最後まで
遠くの風を羽根で切る
音が確かに見えている

双眼鏡の視界をはこぶ
嘘のない世界へと飛ぶ
萎れた身体が夏に見た
押し花の様に剥離した

血織の帯を撒きながら
落ちてゆくあかき亡骸
この土はそれを優しく
残さずに飲込んでいく

今この空には白き手が
舞い踊る様な声だけが
オーバーロードの所迄
大らかに歌う最後まで
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