フランス人形/soft_machine
春の雨に隠された怖れを彼女は見ている
幾つものしずくに映る逆さまの世界を
彼女は見ている
からだの動かし方は知らない
時代がかった衣装の代えもない
おひな祭りというものが過ぎて
誰かさんに連れられ
誰かさんの国に来たのかと思う
今は昏いアトリエの
赤い椅子に座らされ
彼女にできた友達は
白い目をした石膏像
きらびやかな花器に枯れてゆく薔薇
西方由来の絹
幾何形体
彼女に触れる人の手を彼女の肌は感じない
彼女に話しかける人の声を彼女の耳は聞かない
語る心のありかを目を閉じ思えば
私達の記憶に残るものは
まばたきのない瞳で見ている
衆人環視のように描く人
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