パンにならないか/
辻野克己
なんの思い出にもならないパンをかじる
作った人も売った人もおぼえていないパン
レシートもなければ味もない
名前はなんだっけ
そもそもほんとうにパンだっけ
おなかのこどもはもうあいたよといって
つぎのご飯をまっている
わたしもまっている
この星にまたひとつ
くうはくという思い出ができたのかもしれない
くうはくをかじるわたしは
名前を思い出そうと
なんの思い出にもならないごはんをかみしめた
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