彼女は言った、現実ってそんなんじゃない/プテラノドン
空席と指定席の区別はなかった。真夜中だった。
列車の座席の上を
紋白蝶が、泊まり歩いていた。
誰かが置き忘れた携帯電話が、
蒼冷めたシートに語りかけていた。
沈黙が発光していた。それから消えた。
或いは、売り子の女が枕もとの携帯画面に
蒸発同然の文章を残したまま、ねむりにつく頃、
月光を遮るカーテンは、
真昼のコウモリのようだった。
ぎゅっと閉じられたまま。月光を吸収するだけ吸収して、
はばたくことはなかった。はためくことは、きらめくことはー
瞼を閉じながらにして感じれる
ディキンスンの髪をとかした、あの風は?
それらの問いかけを無視して、女は夢のなかで
黄色い崖っぷちを歩き続けた。
(身体の一部と化した)カートの中身はからっぽで
一体全体、何を売ればいいのか
さっぱり分からない。
道すがらに咲く花々を摘み歩いて
花屋のようにそこを埋め尽くそうにも
相手は誰もいなかったし、そもそも、
そんな事思わなかった。
きっと、大勢の蝶が私の回りを
飛び交うに決まっているから。
いや、だって
現実ってそんなんじゃない。
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