高瀬舟/一筆
 
散る花を運ぶ水面にゆれる
ふたつの影は黙して語らず
罪と咎とをひとつに乗せて
高瀬の舟は川を下る

祈るかたちの手を血に染めて
ひとを殺した罪人だとは
見ても思えぬ有様の

夢に疑うことなかれ
真実一切偽りなしと
天の裁きを覆すには
示す証がなくてはならぬ
何が罪かを神ならぬ身で
裁く謂れは何処に在る

葦の深い岸辺を選び
人目を避けて舟をつけ
手鎖をゆるめた理由を
訝しげに問う澄んだ瞳

風の囁く声を聞け
誰もおまえを咎めはしない
飛び降りて今疾く走り去れ

どこへもゆかぬと首を振り
静かに伏せた眼の中に
怒りも嘆きも消え果てて
理由を固く封じた唇は
花のように微笑むだけ

流れに逆らう櫂の重みで
石に砕ける波しぶき
ふたつの影は黙して語らず
罪と咎とをひとつに乗せて
帰らぬ舟は岸を離れる

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