春雨の午後 /服部 剛
 
ざいます 
君の母に見送られ 
玄関を出る 
薄く色づく桜並木の道から 
いつのまに春雨の止んだ
空を見上げる 
自ら人生を途中下車した友よ 
時に無様な格好で 
地上の旅を続ける私は 
頭上を吹き渡る風になった君へ 
大きく手を振りながら 
「 生きる 」
というたった一つの答を伝えようと 
これから幾度も 
君の名前を呼ぶだろう 
今日も駅の入口へ 
吸い込まれては吐き出される 
まばらな人の間を私は往く 
「旅人の木」という 
君の遺品の本を入れた 
鞄を背負い 
顔を持たない街の微笑に 
渇いた唇を、噛み締めて 
震える拳を、握りしめて 
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