「明け方の月はよく笑う」/ベンジャミン
 

オレンジの雲をかじる
甘酸っぱい空気を冷やして飲んだ

気流が発生する前の
静かに流れる朝は鳥の声に押されて
ようやく白い地を染める

地球の回転は空の綱引き
勝ち負けのない勝負は
けれど引き分けることもなく
色を投げ合って
しまいには祝砲をあげる

朝だ!
という歓喜が横一面

生き物たちは上気して殻を脱ぎ
植物は葉をそらせて光を射出する
それを見守るように
陽は自らをとかして広がる

やがて音が満ちてくると
透明になりかけた月が
くすくす笑いながら眼を細めて
交替の準備をする

見つめあう太陽と月は
お互いの領域を意識しながら
その境界をゆっくりと動かす

(見てごらん)

月が消え入るそのとき
光の闇と闇の光が交差する

その輪郭をなぞれば
それは満面の笑みなのだ

呼応するように
白々としたかすみは晴れ
陰影に潜んでいた喜びたちが
姿を見せ始める

それは
明け方の月が夜まであずけた
感情の振り子

素直に従うだけで
自然と笑顔になれるだろう



    
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