「 犬雨。 」/PULL.
窓の外がうるさいのでカーテンを開けると、案の定、犬が降っているのだった。雨粒たちはみな、犬の姿をしていて、降り落ち、地面に当たると、きゃいんきゃいんと啼いて弾け数粒の、子犬になるのだった。耳を澄ますと、屋根に落ちた犬が爪を立てて、屋根瓦の上を滑り落ちてゆく音が、右に左に聴こえる。遠くで、排水溝に吸い込まれてゆく犬の、遠吠えが、する。飲みかけのティーカップの中の犬たちが、そわそわと波立ち、わたしのからだの中の犬たちが高く、呼ぶ声がする。眼から逃げ落ちた犬が。
床に、ちいさく弾け、弾けた子犬がわたしの脚にちいさく、いくつも噛み付く。傷口からは赤い犬が流れ出し、赤い
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