【短歌祭参加作品】最終電車/伊那 果
 
 出発を告げる笛の音 闇を裂く 背中押されるままに乗り込む

 さようなら 吐息の窓に書いた文字 消えるころにはすべてが終わる

 逆向きの電車に乗れば初夏(はつなつ)の第一話まで帰れるはずだ

 たどり着く場所はどこでもかまわない ふたりで乗りたかったA列車

 新しい切符を買えば何もかもリセットされる、という幻想

 たましいを抜かれたままの影の群れ 溶けてしまおう最終電車

 二番目の駅のホームに残された水たまりだけがこの恋の跡
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