スピンオフ/影山影司
偉人であつた。
白痴の少年にあてがわれた医者は「この子は捻子一本無くしとる」と言うた。
医者は鋭かったが 両眼に被さる安物色眼鏡のせいで 事実を見誤つた。
捻子を無くしたのは白痴ではなく奇才の方で
様々な制約から解き放たれた奇才は
右の目玉の代わり 螺旋穴をぽこんと開けていた。
螺旋穴はブラツクホールだつた。
奇才を取り巻く白痴の全てを吸い込み 圧縮した。
奇才は絶え間なく吸い込まれる 純粋な情報を吸い上げ
何もかもを数え上げ 折り畳み 弄んだ後に 飽いて 捨てた。
捨てられたものも 残らずブラツクホールが吸い上げた。
ブラツクホールは全てを吸い込み圧縮する。
情報という情報が小さく小さく纏まり 終いには1Bit、1Dotの情報になつたのだ。
見よ、いまやその1Bitが
世界よりも重々しく在る。
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