フウテンの辰旅日記/海野小十郎
フウテンの辰旅日記(その一)
おれは途中下車してよ
その駅では
もう列車はないてよ
夜だったよ
真夜中に違いねえ
腹が空いてよー
左の角に
一杯飲み屋
暖簾をくぐれば
女将さん
もう閉店間際
「何にするの?」と
おれは二級の酒を一杯
注文した
旨かった
タバコはよく吸うのに
酒はあまり飲まない
酒頼んだら
「肴は何に」
て聞く
懐中3百円
「何でもいいよ」て答えると
「じゃあナマコなんかどう」
と女将さん
ナマコの酢の物を出す
旨かったなあ、あの酒
とナマコ
生まれて初めて
ナマコなるものを食う
ナマコはほんとに旨かったぜ
その晩は駅で寝て
始発で
当時のガッタン・ゴットン列車で
京都へ
向かったよ
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