かわく蕾/亜樹
 
トーブの上
やかんがシュンシュンと音を立てる
そのお湯で淹れられたコーヒーの匂いは
そのまま壁に染み付いて
また新しい染みになる。
あの薄暗くやさしく湿っぽい司書室で
黒い長い髪をした
やさしく賢く臆病な
私に良く似たあの人の
あの日の顔が
長いこと思い出せなかったのだけれど
今日顔を洗ったら
鏡の中に
彼女がいた。

咲かないほうが
よかったのに、と
恨みがましく
呟きながら。
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