ラセンウジバエ(雌)の独白/佐々宝砂
 
1.日没

私はラセンウジバエ(雌)である。
私には名前がない。
ラセンウジバエ(雌)の群の中から
私を識別し同定することは誰にもできない。

二枚の羽があやうくふるえる。
ホルモンは累卵。
ラセンウジバエ(雌)は自ら望んで堕胎する。
自ら望んだのだと信じて堕胎する。

日が暮れてゆく。
世界は
誰のせいでもなく闇に閉ざされてゆく。

ラセンウジバエ(雌)の群は
明日には死骸の群に変わるだろう。
私はラセンウジバエ(雌)である。


2.カーテンの向こう

それについて私は語らない。
カーテンがあるだけましだったと
その程度のことは語ってもいいが。
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