湘南、春の片隅で/銀猫
丸みの無い水平線の向こう、
空と海の境界が
白く曖昧になるあたりで
春、が転寝している
寒気から噴き出した風が止み
陽の降り注ぐ砂浜には
くろい鳥のような人影が
水面に微笑みを向け
沖ではヨットの帆が
海風と蝶のように戯れ
春、に流れている
海沿いのテラスで
トマトの匂うカクテルを透かしながら
砕けた氷の解ける様を
冬と重ねて
わたしも春のひとひらになり
こころをふっと
翡翠色の波に流してみると
帆を持たぬ小さな船は
波打ち際で横倒しになりながら
少しずつ沖の、
春のいる方へ流されてゆく
弥生月、
埃と潮と花の匂い
呼吸は
浅く。
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