新宿の歌/阿川守基
 
かたくなな心を
あたたかい雨が叩く
旋律は燃える
今は遠い父の膝で
聞いていた
赤い新宿の歌

手を打つ
男らの丸い肩
裸電球の下で
揺れていた
私と湿った座敷と

歌っていた
赤い新宿の歌
父の胴を
のぼっていく声
雨にけぶり
暗い灯を灯す
漂う土地の名を

なぜあれほど激しく
焦がれていたのか
いまだ見ぬ赤い新宿を
酒は燃えて声は高まり
いつしか見えそめた
暗い海の広がり

初めて孤児となり
わたしは泣いた
途方もなく大きな
おとなたちの歌声のなかで
精一杯
誰にも気づかれず

夜は更けても
せつなく燃えていた
赤い新宿の歌
しぶく雨音に想う
遠い旋律の在り処よ

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