モデルハウス/小川 葉
 
ある休日
ちょっとしたことがきっかけで
僕らはモデルハウスを見学した
床暖房完備なので
ストーブは不要と説明された
あたたかたったのは
春のせいだと勘違いしていた
外はまだ少し寒かったのだ

二階にあがると
寝室の窓のすぐ下に川が見える
飛び込むと僕らは魚になっている
奥さんが寄り添ってくる
鱗の綺麗な奥さんだ

もうすぐ水温む春
産卵期がやってくる
僕らは魚のモデルハウスを見学しにいく
床暖房はなかったけれど
春になれば暮らしていける
家が必要なのは魚だって同じことだ

夜になると
モデルハウスの寝室の窓に
やさしい明かりが灯っている
命のようにあたたかい
卵の黄身色の光が
そのすぐそばの川に
ゆらゆらとうつっている
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