春を告げる/亜樹
定子がこの山間の小学校の臨時講師をするようになって、半年が過ぎた。いまだ戸惑うことが多い。それはけして近年盛んに報道されるような子供の素行についてや、モンスターペアレンツなどと呼ばれる極度に過保護な保護者についてなどではなく、むしろその逆だった。
ここいらの小学校にもっとも多く寄せられる苦情は、やれ庭先の柿を盗んだだの、うちの沼でざりがにを釣っていたなどたわいなく、それまで街中の学校にしか勤務したことしかない定子にしてみれば、可愛らしいとしかいいようのないものだった。少しやんちゃが過ぎる子供にしても、爆竹を鳴らすのが関の山だ。田舎らしい排他的なところがないでもなかったが、それは何もここに限っ
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