僕らの背景/小川 葉
 
現代の死よりも
近代の死に存在感があったのは
そこに大きな背景があったからだ

記号のように識別され
消費されるように過ぎていく
現代の死にも
大きな背景があるとしても
誰かにとって大切なことが
誰かにとって
必ずしもそうではないように
人は人の間を埋めていく
あるいは廃除していくだけの
日々の仕事に忙しい

作業のように生きて
言葉を並べ
意味を岸に置き去りにして
遠洋の彼方で空虚に鳴り響き
音に反応するように
反射神経だけで生きて
回遊魚のように
素早く肥えて移動して
安っぽく食べられてしまう

家畜は生きて
生かされて
消費されるためにあった

そこには当然死があって
詩、さえあって
なお家畜経営という
大きなものに飲み込まれ
僕らを待ってはくれない
現代がある
現代の死がある
詩だけが足りない

僕らの背景には
同質と異質
このふたつある
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