雨水の日の夜のこと/右肩良久
 
花を持つ。それが輪唱のようにあちこちで繰り返されるのでした。
 気がつくと葉や花々に囲まれ、すっきりと背の高い菩薩が立っています。宝冠宝珠、白の袈裟、足下へ真っ直ぐに流れる瓔珞。それが炎を立たせる白い和蝋燭のように、しっかりと形を保ちながら上下に揺動し、やがて歩き始めます。こちらから見て逆さのことですから、はっきりとお顔の様子もわかりません。歩くにつれて遠ざかるようで逆に近づき、近づくようでどんどん遠ざかるのです。視線ではなく意識だけで僕は彼を追い、また引き離され、ただその距離に心地よく翻弄されるのでした。
 ブンと音がしてインバーターのエアコンが作動しました。瞬く間に起こった対流が天井の土地を吹き払い、その総ては攪拌されて、見慣れた部屋の構図に溶解してしまいました。
 僕の意識もほどなく眠りの蔓に絡め取られ、すうっと立ち枯れていったのです。この話はこれで終わりです。
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