卒業/Utakata
全ての旅立つ人のために
***
湯気を立てているお茶のカップと
小さく開いた窓から差し込む朝の光と
四月の風に揺れる薄いカーテンを
置き去りにしたままで部屋の鍵をかける
鍵はこれから瓶に詰めて海へと流すので
もうこの部屋に戻ってくることはない
閉まりかけるドアから最後に見た風景は
何も知らずに持ち主の帰りを待ち続けるようにも見えた
***
手のひらにはもうひとつ
このあいだ受け取ったばかりの見慣れない鍵がある
その鍵に合う扉を探す長い旅が
いまから始まろうとしている
***
旅に持っていけないたくさんのものを捨てる
幾つかのもの
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