待つ/たもつ
眼鏡を忘れた
喫茶店に忘れた
雨が降っていた
それは喫茶店の外だった
どうしても、とやはり忘れた、が
喫茶店は三軒目だった
ジャンバーを着込んだ人が
すぐ隣を通り過ぎていく
描きかけの象のように
僕は小さく待っている
文字は音を持たないのに
いつものようにうるさい
眼鏡をわすれた
三軒目の喫茶店
四軒目で気がついて
五軒目で父親の真似事をして
六軒目でなくした
もし近眼だったら大変なことになっていたけど
中学生の集団がおそろいのカバンで通り過ぎていく
僕は近眼ではないので不便なことがないまま
人の形をしている
小さく待つ
春はそうしているうちにやってくる
坂道のある方から
眼鏡に忘れられた僕の
掌に納まろうとする
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