蝉の砂時計/たりぽん(大理 奔)
 
 雪雲が切れたようだ。陽が射すと季節が春へむかっているのがわかる。公園の駐車場で休憩としよう。座席を後ろに倒して窓をすこし開ける。エンジンを止めてガラス越しの青空をピラーで切り取ると鳥のさえずりが聞こえる。まだ風は冷たさを残していたからルーズに羽織っていたジャンパーの襟を直す。去りゆく冬への礼儀というわけでもないけれど。窓の外、空にむかって葉を落とした木々が手を伸ばしている。空にむかう枝は地中の根と相似形だという事を思い出す。枝は空にむかう根なのだという。空を掴むことはできないけど、光を絡めとろうと伸びている。

 ふと蝉のことを思う。

 木々の根に抱かれて育っていく蝉のことを思う。蝉を
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