うそをつく人/亜樹
ったように思われるかも知れないが、父の言っていたほかの多くのことはやはり嘘でしかなかった。
例えば、冷蔵庫の中の私のヨーグルトを食べたのは自分じゃないだとか。
うちの山にはトトロが住んでいて、子供のときにあったことがあるだとか。
姉は実は川からたらいに乗って流れてきた赤ん坊だったとか。
そんな風な、たわいもない子供染みた嘘を父はたくさんついていて、私はそれを信じたり騙されたり相手にしなかったりしながら、大きくなった。
彼は祈ってくれたのだろう。
そんなたくさんの嘘の中、紛れてしまった本当が、そのうち嘘になるように。
けれど、切ないことに嘘は嘘のままで、本当のことはみじんも揺るがなかった。
父に何かあったとき、私の血は輸血できない。
そのことだけが、不意に悲しい。
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