ほろびの香り/いねむり猫
 

滅びの香りがする 銅の食器で
焼きたてのパンと新鮮なミルクの朝食を取る

滅びは、この部屋の艶のある壁板にも
床の複雑な絵柄の敷物にも 住んでいる

ここでつむがれていく命

日の光が食卓に射し込み
さわやかな味のスープを輝かせる
この命を支える食べ物たち

命は ほろびのはじまりにすぎない 
カーテンの陰で 陽射しから身を守る老人のつぶやきを
豊かな母親の笑い声がかき消していく

この古い家屋の中で 幾つもの世代が
おろかな熱意の中で伝えてきた 怒りや悲しみの連鎖を
幼子は 食事の喜びに打ち振る スプーンのしずくにして
どこかへ吹き飛ばしてしまう


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