香り/よしおかさくら
 
この冬、私は矢車菊の紅茶に恋をした
CMコピーのようにもったいぶって
今までこの香りが無くて
やってこれたことの不思議を思う

確かに
その前の年にはミルクココアに恋をしたし、
さらに
その前の年にはキャラメルマキアートに恋をしたし、
さらに
その前の年にはコナコーヒーに恋をしていた

しかしどの香りも
矢車菊ほどに私を微笑ませてはくれなかった

ミルクココアは
いつも渦を巻いて
約束をはぐらかしてばかりいた
キャラメルマキアートは
話に耳を傾けてはくれず
いつもすぐに居なくなってしまうし、
コナコーヒーなどは
私を孤独に陥れる為の
策略を練っているようにしか見えなかった

矢車菊の紅茶だけが
恋の甘酸っぱさを思い出させ、
同時に身体を暖めてくれた

この冬、私は矢車菊の紅茶に恋をした
遅い午後に夜の香りを伴って
いつまでも眠ろうと思わない
時間が早く感じられる不思議を思う
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