昼の月/
松本 涼
昼に見上げた薄い月の
その不確かな存在感とよく似た
獣が私に住んでいる
恐らくそれはずっと其処で
私に気付かれる事を
待っていたのだろう
それにしても沈黙は余りに長く
お互いの黒い瞳がただ
向かい合わせなまま
獣はもう言葉を覚えてはいない
けれど獣の怒りはすぐ傍にある
そしてそれは私のものだ
獣はいつしか更に薄くなり
やがてその姿は見えなくなった
そして私は今 獣の中で
昼の月を見上げている
一体これは
いつの怒りなのだろう
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