昼の月/松本 涼
 
昼に見上げた薄い月の
その不確かな存在感とよく似た
獣が私に住んでいる

恐らくそれはずっと其処で
私に気付かれる事を
待っていたのだろう

それにしても沈黙は余りに長く
お互いの黒い瞳がただ
向かい合わせなまま
獣はもう言葉を覚えてはいない

けれど獣の怒りはすぐ傍にある
そしてそれは私のものだ

獣はいつしか更に薄くなり
やがてその姿は見えなくなった

そして私は今 獣の中で
昼の月を見上げている


一体これは
いつの怒りなのだろう



戻る   Point(4)