バンドネオン/角田寿星
をあける
知る人のない並木道を踏みしめた 薄紫色の
花の絨毯をふたり 深く知ることの難しさを
確かめようとかたく手を握りしめる瞬間その
手のひらと手のひらのわずかな間隙を狙って
散りゆく花のかけらが忍びこみ溶けて静脈を
遡る 毛細血管から支流を抜け本流へやがて
心臓ちかくの大血管に到達する あたたかい
オルヴィード。
色鮮やかに縁どられた外壁を持つ建物の群れ
が鳥のように河岸に列をなす折しもあなたは
源流より大河へつづくながい旅程を終えよう
としていた草原を渡りあるいた記憶も誰から
ともなく伝えつづられた物語もたった今この
雑踏でうたいおどられる劇中劇さえも過去の
事象として忘れられた 変わり果てたあなた
にとってあなたは誰なのか思い出せない風が
いつしか体内をめぐりあなただけが持つただ
ひとつの音を響かせる バンドネオン ロカ
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