まよなか/Utakata
 



まよなか
くらやみの中から線路が延びている
金属のレールの上に耳を触れると
同じ路線の上を歩く子供の足音が遠くに聞こえる
もう帰らない
もう帰らない
稲穂が風にしなう
線路から足を踏み外せば死んでしまう
そういう決まりは既に作られている
車両が走る重い振動音が伝わってくるが
電車は永遠に子供のいる場所へはたどり着かない
一歩ずつ子供は自分の家から遠ざかっていく
線路の先はくらやみの中へと延びている



まよなか
潮が満ちる頃
波に乗ってくらげたちは陸に上がる
満月が空の中天にかかっているので もう重力に従う必要がない
青と金色に光る半透明な球体
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