冬の霧雨/よしおかさくら
 
冬の霧雨というのはほんとうに冷たい
黒く澄んだ闇を
次から
次から
落ちてくる細い線
デパートの屋上から
湯気が立ち昇っている
風に流されるまま
右へ行ったり
左へ行ったり
闇は果てしなく深いようだった

あまりの寒さに
しかめつらの人々と
バスを待ちながら
古いジャズを聴きながら
夜の冷たさが愛しかった
空を仰ぐと
風が応えた
周りに合わせて後ずさりしても
遅い
わたしは既に
受け入れてしまっていた
頬に触れた雨が
温かく感じる
あのひとの手がなぞるみたい
唇が勝手に
微笑みを形作ってしまう

冬の霧雨というのはほんとうは冷たい
黒く澄んだ闇に
次から
次から
線が砕けていく
デパートの屋上で
湯気が立ち往生している
風に流されるまま
右を向いたり
左を向いたり
闇は果てが無く迷うようだった
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