灯油売りの少女/小川 葉
灯油売りの少女が
トラックでやって来る
代金を渡すと
あんなに灯油を持ってるのに
手はこんなにも
冷たい
いつかストーブ売り場で
少女を見たことがあった
ストーブをひとつずつ見て
見終わって最後に
ため息ひとつついて
寒さに震えていた
火事があった
近くに少女のトラックがあったので
人々は疑った
少女は街を出ていった
それから街に
灯油売りの女がやって来た
灯油売りの女が売る灯油は
あまりに高すぎて
誰も買えなかった
彼女には家があり
ストーブも持っていた
彼女の家だけが暖かかったので
街の人々はみな
彼女をねたんでいた
火事があった
灯油売りの女の家だった
いいきみだと
誰も火を消そうとしなかった
そこへ一台の
消防車がやって来た
ホースをすばやく引き伸ばし
ひとり勇敢に
火に立ち向かったのは
あの少女だった
消防士の少女になっていたのだ
戻る 編 削 Point(2)