飽和/銀猫
浴槽のなかで
泣くと
温まった頬よりもっと
熱いものが滑る
首筋をかすめて鎖骨へ
塩を含んだ水滴が落ちて
水に溶けてゆく
こうしていると
かなしみはまた
薄い皮膚を通して
こころに戻ってしまう
そんな感覚を覚えるが
ひとりで泣ける場所は
そんなに多くは無い
冷えた感情は
いつか飽和を超えて
爪先や目の色に
滲み出てくるだろう
浴室の窓を細く開くと
闇の中に梅の匂いがする
わたしがまだ
冬、だというのに
空気は確実に
暦を辿っているらしい
芽吹く季節に
生まれてくるのは
真新しい涙だろうか
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