レガートのための覚え書き/美砂
(ベートーヴェン
最後の弦楽四重奏曲、第十六番
三楽章によせて)
土にもどったといったところで
だれも
これがあのやわらかな若葉だったと
気づくものはいない
虫の寝床となりながら、身をほじくられ
ある日ははしゃぎまわる靴に踏みつけられ
またある日は冷たい雨にうがたれて
日一日と朽ち果ててゆくばかり
これほどの悲痛が
なぜ嗚咽もなく、叫びもなく
おこなわれるのか
季節の
めぐりをしっているかのように
一面に張り巡らされた
この灰色の空のかなたに
ゆるやかな光がみえるように
それに照らされながら
しだいに
あたたまってでもゆくように
境目などなく
つないで
つないで
ざわめくこともなく
あわてることもなく
つないで
つないで
(2006年作)
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