柔らかな手/松本 涼
 
私の影がそろりと
地表から剥がれる時
私はやはり独りで
遠く空を見上げているのだろう

そして夜毎夢の中で
出逢う死者たちは
いつもと同じ柔らかな手を
差し伸べるだろう

けれど彼らはいつだって
私の居場所を知っているのだ
瞬時に移ろう私の
たましいの色までも

古びた剥き出しの配水管の中で
大通りのスーパーマーケットの屋上で
信号待ちの横断歩道の向かい側で
彼らは今日も静かに暖かく
私の影を見つめている


ある日 私の影がそろりと
地表から剥がれる時
私は初めて彼らの柔らかな手に触れ
今日の日を鮮やかに
思い出すのだろう


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