早いひと/恋月 ぴの
 
た女とはなっていない証し

トイレで彼の痕跡を洗い流す
それは忘れ去られた羊歯類にも似て
ビデの勢いに逆らうことも無く流されていった

相も変わらずすっきりとしない朝の目覚め
燠火のように何かが心の裡でちろちろと赤い舌を出し

今では物置小屋と化した部屋を覗くと
彼はケージの中から媚びた表情でわたしを見上げる

今夜は得意先との会議で遅くなるから

窓の外では集団登校する子供らの嬌声が響き渡り
わたしは買ったばかりのコートに袖を通す


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