命日/小川 葉
自転車のタイヤがパンクしたので
中からチューブを取り出したら
古い友人が出てきた
すっかり雰囲気が違って
歳をとったのか
顔にはたくさんのしわがあった
飴をくれる癖があったので
すぐに彼とわかった
飴を口の中で溶かしながら
僕らは懐かしい話をした
自転車でよく飴を買いに行った駄菓子屋は
もう随分昔になくなったのだそうだ
あの日彼からもらった飴を
結局食べることはなかった
今日が彼の命日だった
僕はチューブを交換して
再び自転車を漕ぎ出す
忘れてしまっていたことが
まだたくさんある気がしていた
自転車に乗って眺める景色の
残酷さについて考えた
昨日まであの家に暮らした人が
今朝はもういないかもしれない
丘の上から眺めると
街は確かに
はじめて見る光景だった
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