遺跡泥棒、冬/小川 葉
 
西から染まったお日様が
遺跡に沈む
冬の匂いをさせて
泥棒は何も盗まずに訪れる
花を添えて
ママが遺跡になったら
何も盗むものがなくなった
掌を合わせて呟く
これでいいのだ
その言葉の意味を
天才の息子が執拗に尋ねるが
泥棒は答えない
泥棒が生涯たった一つ
盗むことが出来たのは
ママの心だけだから
鼻毛は昔より湿っぽくて
腹巻は少し緩くなった
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