確められないひと/恋月 ぴの
 
ンドへ行ったりした

誰もがゴールイン間近だと思っている

それでも彼の息遣いを胸元に感じるとき
ふと思うことがある
このひとはいったい誰なんだろうかってこと
生い立ちも知っているし
卒業した学校も勤務先も知っている

それだけで彼の総てを知り得たと言えるのだろうか

深夜の洗面所に並ぶ二本の歯ブラシと
精液の臭いがする濡れたバスタオル

かつて一度も訪れたことの無い地方について
彼の語ったことばが耳に残る

去年の夏、君と出かけたあの避暑地で…

生い茂っていた葦原はいつの間にか刈り取られ
寒々しさに凍える多摩川を渡りきる頃
彼からのメールを知らせる光が走り

大切な何かを失いかけている自分に気付く



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