[いたみ]/東雲 李葉
知らないから触れてみたいと思う。
分からないから知ってみたいとそう思う。
感じたことのない痛みを、まだ知らぬ絶望を、
どうしようもなく味わってみたい時がある。
渦中の自分は肩幅ほどの範囲でしか物事を理解できないのに、
枠の外から眺める自分は見ている痛みを知りたいと云う。
知ったらどうせ泣き出す癖に。
食べたらどうせ吐き出す癖に。
例えば、
黒い鉄の塊で身体を貫かれてみたいとか。
例えば、
臭いも姿もない空気に呼吸を奪われてみたいとか。
訳も無く赤を見たがったり。
水面を小石で揺らしたり。
自分の影を疑ったり。
自分の赤を見たがったり。
咽喉を過ぎて熱を下せば、
残るものは僅かな感覚。忘れてしまうのも無理は無いでしょう?
忘れたから思い出したいとそう思う。
忘れたことさえ忘れたから新たにまたそれを知りたい。
小さな口を鏡に向けて向かい合って笑ったら、
撃鉄に指を食い込ませ重さを身体で感じたい。
どうしようもなく誰かに撃たれてみたいんだ。
ねえ、黒い塊持ってない?
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